

あれは27歳か、28歳の頃でした。風呂上がり、洗面所の鏡の前に立った、その瞬間――すべてが始まりました。
ふと、視線が最前線に吸い寄せられました。左右のこめかみの上――ちょうどアルファベット「M」の、上のふたつの角にあたる部分。そこに、たった1本、髪の毛が生き残っていました。
そもそも「M字」という呼び方は、こめかみ上部の生え際が後退した形がアルファベットの「M」に見えることに由来する俗称です(医学的な正式名称ではありません)。当時の僕には、そんな豆知識を呑気に考える余裕もありませんでしたが。
周りの毛は、もういません。かつて防衛ラインだった場所に、撤退し忘れた戦友がたった1本、ポツンと立ち尽くしています。つまり最前線はすでにそこまで侵攻されていて、この1本は「取り残された最後の生存者」だということです。
その理解が全身を貫いた瞬間のことは、今でもはっきり覚えています。
「――噓だろ。僕の最前線、もう侵攻されてるじゃねえか」

この記事で分かること
- 28歳・風呂上がりの鏡での発覚の瞬間(実話)です
- 「見なかったことにする」を選んだ僕がどうなったかです
- 22歳の頭頂部写真など、後から気づいた伏線です
- 8年後の現在地と、このブログを書く理由
気づいた直後にやったこと
まず、指で触れて確かめました。角度を変え、鏡に顔を近づけ、何度も何度も。何度確認しても、戦友はやはり1本のままでした。
その夜からスマホの検索履歴は「M字ハゲ」「薄毛」「若ハゲ」一色に染まりました。読めば読むほど不安を煽ってくる情報と、「絶対に生える」と豪語する怪しい広告――その狭間を、ひたすらスクロールし続ける夜が続きました。
誰かに相談したかというと――できませんでした。親にも、友人にも。散々検索を重ねた挙句、僕が選んだ行動は、我ながら情けないものでした。
――見なかったことにしました。それが、当時の僕の唯一の選択でした。
気づいた直後、僕がとった行動は「立ち向かう」ではなく「見なかったことにする」でした。まだ何とも戦っていない、ただ目を逸らしただけの数ヶ月でした。
人間は、本当にまずい現実を目にすると「なかったこと」にする生き物らしいです。それから僕は、鏡の前で最前線を視界に入れないスキルだけを、無駄に上達させていきました。
振り返れば、伏線は全部ありました
今になって振り返れば、伏線はもっと前から張られていました。時系列で並べるとこうなります。
中学生の頃です
脂漏性皮膚炎と診断され、かゆみやフケ、かさぶたに悩まされていました。
20代前半です
やんちゃもしていて、前髪のブリーチやカラーを繰り返しては頭皮を酷使していました。
22〜23歳の頃です
電車で寝こけているところを知り合いに撮られた写真に、自分の頭頂部がパックリ割れて薄く映っていました。「あれ、僕の頭頂部、薄くないか……?」と初めて疑念を抱いた瞬間でした。
当時はぜんぶ「気のせい」フォルダに放り込んでいました。伏線というのは、回収されて初めて伏線だったと気づくものらしいです。
あれから8年。「あの1本」はもういません
8年前に見た「1本だけの戦友」は、今はもういません。敵は止まらず、8年前と同じ光景がセンターにも再上映されています。
36歳になった今、Mの角にいたあの戦友は、去年あたりを最後に、気づけば姿を消していました。Mの角度は年々鋭さを増し、鏡を見るたびにその侵攻具合を確認する日々です。
そして最近、今度はMの真ん中――センターの最前線に、「上だけ後退して1本だけ取り残された毛」を見つけてしまいました。8年前とまったく同じ光景が、場所を変えて再上映されています。正直、かなりまずい戦況だと思っています。

このブログを書くことにした理由
正直、薄毛について書くのは気が重かったです。でも、同じように鏡の前で固まった経験を持つ同志は、自分が思っている以上に多いんじゃないかと思います。
ネットで検索すると「劇的に改善しました」という体験談か、逆に不安を煽るだけの記事か、両極端なものばかりで、等身大の記録はあまり見つかりませんでした。だから、このブログでは「今のところ結論も答えも出ていない」という状態も含めて、正直に記録していくつもりです。
もしこれがゲームだったら、あの夜の洗面所で「新しい称号を獲得しました」という通知が鳴っていたはずです。称号は「M字ハゲ、気づく」。強くなれるわけでも何でもない称号ですが――これが、僕の物語の始まりでした。
次回は、この現実になかなか追いつけなかった、僕の情けない葛藤の記録を書いていきます。この物語は、まだ序章です。
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職業: 会社員(兼・薄毛と戦う者)
装備: なし(素手)
累計課金額: 0円
現在のクエスト: 現実を受け入れる
称号: 「M字ハゲ、気づく」
この記事の根拠(最終確認日:2026年9月10日)
この記事は筆者本人の体験の記録です。医学的な判断は、下記の一次情報と、医療機関での診察に基づいて行ってください。
※効果には個人差があります。本記事は診断・治療の代わりになるものではありません。





